10. バングラデシュを行く
今回の一人旅はバングラデシュ。深夜2時、シャージャラル国際空港に到着。
真夜中の到着はリスクが高い。急いで町に移動し、適当な宿へ入ると、
初球からバイオハザードだった。ゾンビや亡霊など、素敵なサムシングの存在を感じさせる。
もちろん部屋は、スタンダードな霊安室。ひとりの時間に集中できる、安心の発狂デザインが採用されていた。
陰毛ライクな電線たちが、当然のように乱立していた。そんな、ちぢれ風味の町角では、
掃除にブルドーザーを起用する、ハードコアな国民性が存分にスパーク。背脂多めなそのテンションに、豚骨醤油な青春キャノンボールを感じる。
そんな町は、意外にもひっそりとしていた。今は宗教上「断食」の期間だという。
完全に終了した一般市民など、色とりどりのタイタニックたちが感動のフィナーレを迎えていた。その一方で、
自転車を食べ始める、限界突破の新人類も堂々デビュー。空腹の町はこうして、異常な緊張感に包まれていく。
そんな、あらゆるものを口にできない断食中は、町の各所で黒いカーテンが張られる。本当はいけないけれど、タバコをひっそり吸うためのスペースだという。
しかしその姿は「先生に隠れてタバコを吸う」童貞たちの放課後そのものだった。グレーゾーンを駆け抜ける、大人の断食がここにある。
ところで町には、映画館もあった。ためしにポスターを見に行くと、
ライフルがサングラスの内側を通過していた。帰りのガソリンを積んでないゴキゲンな演出に、プロの役者としての揺るぎないアイデンティティを感じる。
そうして無事、ヤマザキ春のパン祭り以上に盛り上がらない断食キャンペーンが終了。すると町は少しづつ、にぎやかになってくる。
スタジアム級にそそらないカレーも堪能できた。具はニンジンとイモ。そして、たまに着地するハエ。しかも食べている最中は、
わんこそば的ハイペースで水を運んでくる、ノープラン接客が大開脚。秒単位で増殖する無数のコップたちが、みるみるテーブルを占拠していく。
その頃、町の教会では人々が神への敬意を示していた。張りつめた静けさに、緊張が走る。するとそのなかに、
かつお風味の家族が座っていた。電気屋らしい紙袋から察するに、今日初めてのスマートフォンを購入したようにも見える。すると父親が、
子供たちを整列させ始めた。「新品のスマートフォンで子供たちを撮りたい─」そんなさりげない家族愛に、心が癒される。しかし実際は、
自分だけを撮らせてご満悦。ターミネーター級に安定感のあるその背中からは、文字通りのゴッドファーザーぶりがうかがえた。しかも撮影後は、
執拗なダメ出しで撮り直しを要求し、暴君かつハバネロな一面もリリース。説得する子供たちの方が、大人の雰囲気を感じさせた。
そんな町の大通りでは、雑貨の市場が開かれていた。たくさんのお店が集まっていたものの、
店員がカサに隠れて対応する「引きこもり接客」が続発していた。しかし、これでは声がかけにくい。そんな現状を打破したのは、
衝撃の「紙袋ブラザーズ」だった。当然のように自らをトランスフォームしつつ、
ピザーラお届け。地上波初登場のこのユニットに、各メディアからは熱い視線が注がれている。
そんな市場では、厳しい表情で値段交渉をしている状況にも遭遇した。1円もゆずらない、すごい形相だ。
それはまさに、強気な買い手の猛プッシュが続く商売の最前線。しかし本当は、
しゃぼん玉のお買い物でプリティだった。面倒な客完全無視で、店主は今日もマイペースに、しゃぼん玉を放ち続ける。
そして夜は、下町へビールを買いにいくことに。しかし購入はできたものの、全く冷えていなかった。宿に帰り、さっそく氷を頼むと、
お通しサイズの氷を提供してくれた。とりあえずセッティングしてみると、
ヒザ下以下の水深で、癒し系だった。こうして心だけが冷えゆくまま、長い夜は過ぎていく。
いろいろなメーカーが、自社製品をプッシュしていた。しかしその横では、
モアディープな中年が、最終段階に入っていた。なぜか神々しい光に包まれている。
それはまさに、一切の無駄を排除した完ぺきなスリーピング。抜群の安定感で、2位以下を大きく引き離している。しかも、
背景の絵が天使の羽にも見える、ハイセンスな演出で格の違いも披露。全てが計算しつくされた、大人の睡眠がここにある。
ところで町には駅もあった。古びた雰囲気で、老朽化が激しい。そう油断しながら入っていくと、
プラットフォームには、終わらない宇宙空間が広がっていた。前振りゼロのキラーパスに、上司がヅラデビューした月曜の朝のようにとまどう。
車の運転が荒いこの国では、事故は日常茶飯事だ。そのため、人々は助けにくるようで、
すぐに飽きて、世間話で盛り上がる。被害者超絶スルーで、キャッチーに味付けした自らの近況報告を楽しんでいる。
それだけ事故が多いだけに、この国では確かに馬車などの方が安全かもしれない。しみじみ納得しそうになったものの、
さすがに象を見たときは、時が止まったことは否めない。現地人でさえ、振り返りながら視線でツッコミを入れている。
そんな、コンソメパンチなバングラデシュを歩いていると、妙な建物が見えてきた。実はそれは、
国会議事堂だという。小学生が夢想する秘密基地のような闘魂設計には、なつかしい夕焼けがよく似合う。
そして午後は商店街へ。かわいらしい水筒が売られてたので近づいてみると、
構造上、口から飲み物が出てくる嘔吐タイプだった。陽気なランチタイムを暗黒ムードに一変させる、破壊力抜群のポテンシャルに言葉を失う。
翌日は、地元料理を食べるため屋台へと出向く。この壺のなかに、お米が大量に入っているという。
それは羊のミルクで蒸したという、微妙オーラ全開の炊き込みご飯だった。見た目より量を感じたため、少し減らしてくれるよう頼むと、
明らかにやっつけの店サイド。業界最安値のおもてなしを惜しげもなく披露する、強力なエナジーに満ち溢れている。
そうして店を出ると、雨の日でも市場を開催できるよう、大きなテントが組まれていた。
いつしかバングラデシュ人に囲まれていた。そしてすぐ横には、
悟りを開いた修行僧が座っていた。厳しい修行に耐えた者だけが到達できる、まっすぐな眼差しに威厳が漂う。
もちろんその腕には、修行僧ならではの意味深なリングが装着されていた。恐る恐る見せてもらうと、
普通にナイキだった。ただナチュラルにヒマ人だった可能性が、みるみる過半数を獲得していく。
本気で手作りのカーペット屋など、ローファイな魅力にあふれた光景に触れることができた。
ぎっしりと商品が積まれ、なかなかの迫力だった。とりあえず店員を探すと、
すでに無数の銃弾を受けており、虫の息だった。享年32歳。その安らかな表情を胸に刻みつつ、静かにこの旅が終了した。
バングラデシュ。そこは、天然酵母な国民性が満開の妥協なき濃厚国家だった。これからもその独自なマッドテイストを軸に、未開のアンダーグラウンド感をキープし続けて欲しいと思う。